エマニュエル・トッド「EU崩壊で始まる『新世界秩序』」文藝春秋9月2016  

マスコミとは違う見解

英国が国民投票でEU離脱を決めた日は、ありえないことが起こったとする報道に終始した。そして、再度やり直したらとまったく民意まで否定する発言まであった。あたかも一部の扇動によっておこなった愚かな行為の結果だとする勝手な言い分が支配した。それを受けて株価は急落したので、世界経済の危機と反応したのだろう。愚かな国民に引きずられたのだと。

しかし、一か月を過ぎた7月にはすでに株価はもどっていた。

トッドの見解はそれとはまったく逆だった。おそらくドッドならそう言うだろうと私は予想していたので、このインタビューを読んでウン、ウンとうなずいていたのだった。

「イギリス人の判断に私は大いに満足しています」

「欧州を一つに束ねようとするEUの試みは、いまや失敗であることが明らかになっています」

「イギリスは『ドイツに支配されているヨーロッパ』にたいして立ち上がったのです」

「新聞の論調は圧倒的に残留派が優勢でした」

「その背景にあるのは、行きつくところまで行ったグローバリゼーションへの反発でしょう」

「おそらく統合ヨーロッパ崩壊の引き金になりますが、それ以上に重要なのは、世界的なグローバリゼーションのサイクルの終りの始まりを示す現象であるということです」

このインタビューで、キーワードになっているのは、(A)ブグレジット(Brexit)(B)グローバリゼーション・ファテーグ(globalisation fatigue)だろう。

(A)はBritish英国とExit離脱の組み合わせた造語で、今回の離脱現象だけでなく、ひろく国民意識の再高揚の象徴にもなっている。(米国のトランプ現象もその一つ)

(B)はグローバリゼーションへの疲労感、嫌気を指しての謂いだった。

英国でのこの現象が、日本でも他人事でないのは、日本にも格差が拡がっていて、いかにも(B)のグローバリゼーション・ファテーグがみられ、若者たちは内向きになっていると指摘されているからだ。

なぜ、そうなったのか?

それをトッドは「エリートの無責任」という。これはEUの官僚たちの問題だけではなくて、イギリスの官僚も、日本の官僚も同じようなものだといえるだろう。今だけ、金だけ、自分だけの官僚たちが増えたのだ。

しかし、そういった国の方向にかかわる官僚や政治家のエスタブリッシュのなかから「大衆の利益をあえて引き受けるエリート少数派が出てくることこそが変革につながる」と期待しているとトッドは言う。

そこで、終わりに「ディビット・キャメロン首相の辞任表明は、実に見事なものでした」とある。

ほんとうかな? すべてにそうだ、そうだと呟いてきたがこの部分だけは信用できず、訝る。

実は早々と逃げ出したのではないのかと思うので、ここだけはトッドの見解とは異なる。

(大した問題じゃないけど)

離脱交渉を引き受けたテリーザ・メイが交渉を先送りして、来年からにしたのは、戦略を立てるという意味もあろうが、元々残留派だからね。英国にはこの状況を正しく見定め引っ張っていくリーダー、エスタブリッシュの政治家も官僚もいないのが現実ではないのか? 英国にはまだ、この国民的変革を主導する英知は現れていないと思う。

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