井上達夫『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』
2015年発行とあるから、少し前のことになるが、事情があって急きょ読むことになった。
読むといっても素人なので、目を通しておくというぐらいのものである。井上の本は確か昔、哲学塾というシリーズで『自由論』というのをよんだことがあるが、あまり関心を引きいたものではなかったと記憶している。
恐らくそのころは自由と言えば個人の自由と言うか、私的な自由というか、内的な自由と言うか、本質的に自由について考えていたので、関心をひかなかったのだろう。ジョン・スチュアート・ミルの『自由論』についても同じような理由だったのだろう。
ここでいうところの自由というのは、政治的な自由、つまりは共同性にかかわる自由のことだったのだ。人間個体としての自由についての論ではないということだ。社会の中での自由と言う問題だと分かった時点で、すんなり入ってきた。
読了して思うのは、ロールズの転向と世界正義へ向けての論考というのがおもしろい。
価値相対主義を批判して、正義なるものがあるとすることはある意味、絶対主義であって、これが正しいとする考えがあるのだという前提に立つ世界正義のことだから、国際政治における政治哲学として価値があると思う。実際、国際政治と言っても、やくざの世界と同じくあってないようなものだから、そこに世界正義をもたらすことは意味があるだろう。
そしてその世界正義論を支えるポイントは
①グローバルジャスティスの可能性を探ること
②国家体制の正統性
③世界の貧困の問題
④戦争の正義
⑤世界統治構造の問題
だという。
この五つの中で②③⑤には大変興味がある。世界をどう統治していくのかと言う問題と国家にもっと責任をもたせることと矛盾しないか?ということが気になる。
ましてINGO(インターナショナルNGO)というのが、権力を持ち出したら大変だという議論はよく理解できる。
例えば反捕鯨団体などに危険性は見てとれる。自分たちだけが正義だと思い込んでいるからたちが悪いし、また責任が取れるのかということが明らかにされていないからだ。