長山靖生編『詩人小説精華集』断片小説を探して

長山靖生編『詩人小説精華集』断片小説を探して

断片小説というのを提唱している。

断片といっても、いわゆる短編小説を意味しないし、またショートショートを意味するわけでもない。つまりは現在においては小説は断片とししか現れようがないという認識に基づいている。

逆に、断片化としてあらわれるなら、既存の短編小説もショートショートも有りだということになる。

そこに必要なものは、あくまでそこで現実把握がなされているか、現実意識からやむにやまれぬ表出となっているかということが重要なのだ。書き始めたけれど終われなかった、完成しえなかった、完成へとむかえなかったということをさしている。

とりあえずは、これらの要件を満たしておれば断片小説だと言えると提唱している。(長い短いの問題では無い)

いちばん重要なのは、新しいものであること、そこに探究が見られると言うことだ。ハッとさせられる現実をとらえたエクリチュールが欲しいと言うことだ。この基準に照らして本書から何か発見できるだろうかと読んでみた。

正直言って断片小説と言えるものは数少なかった。

しかしながら、長山靖生の趣味による選択によって、いろいろな知見を得たことが幸いだった。長山はどうもアンチ自然主義者であって、耽美主義や浪漫主義などを推薦したいようで、巻末の解説によっても小説的な自然主義ではこぼれ落ちるてしまうものがあるとして詩的真実を内包した詩人・歌人たちの作品を推薦しているようである。

このようにたとえ幻想的であったとしても真実だと言いたい小説でも同じことだ。しかしそこには時代というものがバイアスとしてかかっており、明治大正期は近代化と言うバイアスがあり、また昭和に入ってからはモダニズムとマルクス主義というバイアスがかかっていた事は否めない。それらを排除したとして現在でも通用する短編小説があるとすれば3つあった。

1石川啄木『曠野』

2平井工『ヘディングサウス』

3中原中也『我が生活』

の3作ぐらいだろうか。
啄木の『広野』は長山は社会主義リアリズム的とするが決してそんなものではなく、人間の悪意が噴出したものであって、それは誰にでもあり得るものだ。その内容はこうだ。道に迷った旅人は広野を歩いている。何も食べていない。広野を一人歩いてきた。つかれはているところで、ふと見ると針金のようにほそい犬がいる。くんくんと鼻を鳴らして近づいてきた。尻尾をふっている。旅人は同志を得たと感じるかというとそうではなく、かれは懐から紙縒りをとりだし犬のしっぽに巻きつけた。それに火をつけたのだ。犬は死に物狂いでしっぽの火を消そうとくるくる待っていたが死んでしまった。何というむごいことをしてしまったのだと恥じ入るが、おれはどっちから来たのかも分からなくなって立ち尽くす。そんな啄木自身の自画像ともいうべき幻想を、直視している点にさすが啄木と言わざるを得ない。まさに悪意の表出、現代人の持っている心性であり、まがうことなくわれらの時代のものである。それもちょっとした悪意ではなく酷すぎることもある。いちど偽善を解き放ったら、人間はいかに酷いことをするかと言う事でもある。しかしそこがいかにもリアリティーがあるのだ。またこの作品は別様に読みとけば啄木の周囲の人々への対応でもあって、そこに啄木の自分勝手に目に塞がない(私的真実)を見るだろ。
決して社会主義リアリズムなるというものではないだろう。

平井巧「ヘディングサウス」は現在でも立派に通用する小説だろう。その寓話性、繰り返しによる物語の形態としての完成を含んでいることだ。繰り返しが物語に大切だと言う事は童話を見ればはっきりしている。平井巧こそが日本のランボーと言われた人物だそうだが、これはひとつの物語を確立している。つまり完成度が高いということだ。
いや待って、。
断片小説とは未完ではなかったのか? と先に言った、そう問われるかもしれない確かに未完であってもいいと言うだけで、それがすべてではない。

中原中也「わが生活」は若い頃からこっそりときかされてきた、いわば文壇のゴシップで、中原中也と長谷川泰子、小林秀雄めぐる三角関係のことであるとすぐに気がつく作品なのだが、それを文学集団内ゴシップではなく、作品として読むとそこには三角関係と言う本人にとっては差し迫る苦い体験なのに、中也は冷静に自己分析していて、なんとか普遍に迫ろうとしている点に注目できる。なかなか自分の感情をコントロールしてここまで自分の実体験を告白することは難しいと思える。またこの作品は決して私小説と言うことではなく、中也という個性によって私的真実を求めて生み出されたものと解したほうがいいだろう。

それにしても、郷愁をかきたてる表紙になっていて、つい手に取ってしまったのはやはり幻想だろうか?

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